多くの人が「家賃の安さ」や「駅からの距離」を真っ先に思い浮かべるかもしれません。もちろんそれらも大切な要素ですが、実はそれだけでは不十分です。
私たちの結論から言うと、成功する場所選びの鍵は『事業コンセプトとの一致』にあります。 あなたが届けたいサービスや商品の価値が、その場所の特性や集まる人々と合っているか。これこそが、繁盛するお店づくりの出発点なのです。
この記事では、なぜそれが重要なのか、そして失敗しないための具体的なチェックポイントを5つのステップで詳しくご紹介します。
なぜ、目先の家賃だけで場所を選ぶと失敗するのか?
開業準備中は、運転資金を少しでも多く残すために、固定費である家賃はなるべく抑えたいと考えるのが自然です。しかし、周辺の相場と比べて明らかに安い物件には注意が必要です。
なぜなら、安い物件には安いなりの理由が隠されていることが多いからです。
例えば、「人通りが極端に少なく、そもそも新規のお客様がお店に気づいてくれない」「安さに惹かれて契約したが、ターゲットにしたい客層と地域の住民層が全く合っていなかった」「建物の設備が古く、結局、想定外の改修費用がかさんでしまった」といったケースは少なくありません。
目先の家賃の安さに飛びついた結果、集客に苦労したり、追加コストが発生したりしては、元も子もないのです。
場所選びは、家賃という「点」でなく、事業全体への影響という「面」で捉える必要があります。
【重要】場所選びで本当に確認すべき3つの大原則
家賃の安さという目先の情報に惑わされず、最適な場所を見つけるためには、しっかりとした判断基準を持つことが不可欠です。
具体的なチェックリストを確認する前に、まずは場所選びにおける「揺るぎない軸」となる3つの大原則を押さえましょう。これから紹介する物件が、この原則を満たしているかどうかを常に自問自答することが、失敗を避けるための鍵となります。
この3つの原則が、あなたのコンセプトを実現し、ビジネスを成功へ導くための羅針盤となるはずです。
原則1:ターゲット顧客は本当にその場所に来るか?
どんなに素晴らしいサービスや商品を用意しても、それを求めているお客様がいなければビジネスは成り立ちません。場所選びの第一歩は、あなたの理想のお客様、つまりターゲット顧客が「本当にその場所にいるのか、あるいは来てくれるのか」を見極めることです。
例えば、高級志向の大人向けサービスを学生街で展開したり、ファミリー向けのお店をオフィス街の中心で始めたりしても、なかなか集客には結びつかないでしょう。
まずは「自分のお店が、誰に、どのような価値を提供したいのか」という事業コンセプトを明確にすること。そして、そのコンセプトに合った人々が日常的に集まる場所や、わざわざ足を運んでくれる魅力がある場所を選ぶ必要があります。場所を選ぶことは、お客様を選ぶことと同義であると心得ましょう。
原則2:事業を長く続けられる環境か?(将来性・周辺環境)
店舗開業はゴールではなく、あくまでスタートです。事業を長く安定して続けるためには、その場所が長期的に見てビジネスに適しているかを見極める必要があります。
チェックすべきは「将来性」と「周辺環境」です。
例えば、今は賑わっていても、数年後に近隣で再開発の計画があり、人の流れが大きく変わってしまうかもしれません。逆に、今は静かでも、新しいマンションの建設計画や新駅の構想があれば、将来的に顧客が増える可能性もあります。
また、お店のコンセプトに合わない施設が近くにあったり、夜間の治安に不安があったりすると、お客様が安心して来店できない原因にもなり得ます。
その場所の「今」だけでなく、数年後の「未来」を想像し、事業を続けられる環境かしっかりと調査しましょう。
原則3:売上とコストのバランスは取れているか?(採算性)
どれだけ理想的な場所であっても、利益を生み出せなければ事業を継続することはできません。そこで重要になるのが「採算性」、つまり売上とコストのバランスです。
まずは、あなたの事業計画で設定した売上目標や客単価を思い出してください。その目標を、その場所で本当に達成できるでしょうか?
「この場所の人通りや市場規模で、目標の来客数は見込めるか」「家賃や光熱費、人件費といった固定費を支払った上で、十分な利益を確保できるか」といった具体的なシミュレーションが不可欠です。
家賃は、ただ高いか安いかで判断するものではありません。その家賃を支払ってでも、目標とする売上と利益を確保できる「投資価値」があるかどうか、という視点で冷静に判断しましょう。
失敗しない店舗の場所選び!具体的な5ステップとチェックリスト
3つの大原則を理解したところで、いよいよ実践編です。ここからは、理想の場所を見つけるための具体的なステップを、5段階に分けて解説していきます。
このステップを一つひとつ着実に実行することで、感覚や思い込みだけに頼らない、論理的で納得のいく場所選びが可能になります。
難しく考える必要はありません。あなたの夢を現実のものにするための、具体的な行動計画だと考えて、一緒に確認していきましょう。
ステップ1:事業のコンセプトとターゲット像を固める
意外に思うかもしれませんが、場所選びの第一歩は不動産情報サイトを見ることではありません。まずは、あなた自身の事業計画書ともう一度向き合うことから始まります。
「誰に、何を、どのように提供して、喜んでもらいたいのか?」 この事業の核となるコンセプトが曖昧なままでは、どんな場所が良いのか判断する物差しがありません。
例えば、「30代の働く女性が、仕事帰りに一人でも気軽に立ち寄れるビストロ」と、「週末に家族で訪れて、ゆっくりと時間を過ごせる郊外のカフェ」とでは、探すべき場所が全く異なるはずです。
すべての判断基準は、この「コンセプト」にあります。 まずはご自身のビジネスの原点をしっかりと固めることが、最適な場所を見つけるための最も重要な準備運動になります。
ステップ2:候補エリアの情報を収集・分析する
事業コンセプトが固まったら、次はそのコンセプトに合う「街(エリア)」を探す段階に移ります。いきなり個別の物件を探し始めるのではなく、まずは広い視野で候補地を絞り込んでいきましょう。
情報収集には、インターネットと現実世界の情報の両方を活用します。Googleマップで街の雰囲気を掴んだり、自治体のウェブサイトで人口統計データを確認したり。また、ターゲット層が読む雑誌やSNSから、彼らが集まるエリアのヒントを得るのも有効です。
この段階で分析すべきは、主に以下の点です。
・そのエリアの人口構成(年齢層、家族構成など)
・昼と夜の人口の差
・交通の便(駅からの距離、周辺道路の交通量など)
・競合店の有無や特徴
・おおよその家賃相場
このステップの目的は、可能性のあるエリアを3〜5つ程度リストアップすることです。 まだ一つの場所に決める必要はありません。
ステップ3:必ず行うべき現地調査(フィールドワーク)のやり方
候補エリアをいくつか絞り込んだら、次は必ず現地に足を運びましょう。データや地図だけでは決してわからない、リアルな情報がそこには溢れています。
現地調査で見るべきは、単なる「人通りの多さ」だけではありません。
・平日と休日、朝・昼・夜で、人の流れはどう変わるか?
・実際に歩いている人々の年齢層や雰囲気は、ターゲット像と合っているか?
・街全体の活気や清潔感はどうか?
・最寄り駅やバス停からの道のりは、歩きやすいか、暗くないか?
・競合となりそうなお店はどんな様子か、実際にお客として利用してみるのも良いでしょう。
最低でも平日と休日の2回、可能であれば時間帯を変えて複数回訪れることをお勧めします。あなたの五感を使い、その街が持つ「空気感」が、ご自身のコンセプトと合うかどうかを肌で感じ取ることが何よりも大切です。
ステップ4:【チェックリスト付】物件の比較検討で見るべきポイント
出店したいエリアが固まったら、いよいよ個別の物件探しです。不動産会社に相談したり、物件情報サイトを活用したりして、候補となる物件をリストアップしていきましょう。
ここで大切なのは、一つの物件に一目惚れして即決しないこと。必ず複数の物件を比較検討し、客観的な視点で評価することが失敗を防ぎます。
以下のチェックリストを使って、各物件を点数付けするようなイメージで評価していきましょう。
【立地・外観のチェックポイント】
・お店の前面道路の人通りは十分か
・周辺からの見つけやすさ(視認性)は高いか
・店舗の入り口は顧客が入りやすいか(間口の広さ、扉の形、階段の有無など)
・看板を設置できるスペースは十分にあるか
・物件がしっかり管理されているか
【物件内部のチェックポイント】
・理想のレイアウトを実現できる広さと形か
・電気、ガス、水道の容量は事業内容に対して十分か(特に飲食店は注意)
・必要な水回り(厨房、トイレなど)の設備は設置可能か
・内装工事はどこまで可能か(居抜きかスケルト-ンかなど)
・中途半端なスケルトン状態かどうか
【契約・法律面のチェックポイント】
・家賃、共益費、保証金、礼金は予算の範囲内か
・契約期間や更新の条件は不利でないか
・用途地域など、法律上の制限はクリアしているか
ステップ5:契約前に見直したい最終確認事項
理想の物件が見つかると、気持ちが高ぶり、すぐにでも契約したくなるかもしれません。しかし、契約書に印鑑を押す前にもう一度だけ立ち止まり、冷静に最終確認を行いましょう。契約後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐための、最後の砦です。
最低限、以下の3点は必ず再確認してください。
- 契約内容の最終チェック 契約書の隅々まで目を通し、少しでも疑問に思う点があれば必ず質問しましょう。家賃や期間だけでなく、退去時の原状回復の範囲など、細かい条項まで確認することが重要です。
- 資金計画の最終チェック 物件取得費用、内装工事費、そして開業後数ヶ月分の運転資金まで含めて、全体の資金計画に無理はないでしょうか。想定外の出費も考慮し、余裕を持った計画になっているか見直しましょう。
- 事業コンセプトとの最終的な整合性 そして最も大切なのが、「この場所で、本当に自分のやりたいことは実現できるのか?」と自問自答することです。これまで確認してきた3つの大原則と、あなたの事業コンセプトが完全に一致しているか、最後にしっかりと確認してください。
勢いで契約してしまうのが一番のリスクです。 この最終確認が、未来のあなた自身を助けることになります。
知っておくと差がつく!場所選びのプロが見る意外なポイント
基本的な5つのステップを押さえるだけでも、場所選びの失敗は大きく減らすことができます。しかし、多くの創業者を支援してきたプロの視点からは、さらに一歩踏み込んで確認すべき「意外なポイント」が存在します。
これらは、表面的なデータだけでは読み取れない、その場所が持つ真のポテンシャルやリスクを見抜くための視点です。
ここからご紹介する3つのポイントを知っているかどうかで、あなたの場所選びの精度は格段に変わってくるでしょう。多くの人が見落としがちな「隠れたリスクとチャンス」を見抜くためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
「曜日・時間帯」による人流の変化
例えば、日曜日の昼間に一度だけ現地調査をして「人通りが多いから良い場所だ」と判断するのは早計です。その街の本当の顔は、時間や曜日によって大きく変わることがよくあります。
平日はビジネスパーソンで賑わっていても、休日は閑散としてしまうオフィス街。昼間は主婦や高齢者が多い一方、夜になると若者が集まる雰囲気に変わる商店街。このようなケースは決して珍しくありません。
あなたのお店が最もお客様に来てほしいのは、どの曜日の、どの時間帯でしょうか?まずはそれを明確にした上で、狙うべき時間帯に、ターゲットとなる人々が本当にその場所を歩いているかを自分の目で確かめる必要があります。この見極めが、売上を大きく左右するのです。
周辺の「競合店」は敵か味方か?
自分のお店と同じような業種の店が近くにあると、「お客様を奪われてしまうのでは」と不安に感じるかもしれません。しかし、競合店の存在は、必ずしもマイナスとは限りません。
確かに、ターゲット顧客も価格帯も全く同じで、自店に明確な強みがなければ、厳しい競争に陥る可能性があります。
一方で、同業種のお店が集まることで、そのジャンルに興味を持つお客様がエリア全体に集まり、相乗効果で集客力が高まるケースも多いのです。例えば、ラーメン激戦区や古着屋が立ち並ぶ通りをイメージすると分かりやすいでしょう。
重要なのは、競合店を分析し、自店がどのような価値を提供できるかを考えることです。競合店の存在は、そのエリアに「そのジャンルへの需要がある」ことの証明でもあります。 その需要の中で、あなたの店がどのような独自の魅力を発揮できるか、という戦略的な視点を持ちましょう。
自治体の都市計画や条例の確認
個人ではなかなか気づきにくいものの、街の未来は自治体の計画によって大きく左右されます。また、ビジネスを行う上では、その地域のルールに従わなければなりません。
例えば、数年後に駅前の大規模な再開発が計画されていたり、店の目の前に新しい道路が建設される予定があったりすれば、人の流れは一変します。これは大きなチャンスにもリスクにもなり得ます。
また、業種によっては出店できる「用途地域」が定められていたり、看板の大きさやデザイン、深夜営業などについて独自の条例が設けられていたりする場合があります。
これらの情報は、自治体のウェブサイトや、都市計画課などの担当窓口で確認することができます。契約後に「知らなかった」では済まされない問題に発展する前に、その場所の公式なルールを事前に把握しておくことは、事業主としての責任とも言えるでしょう。
まとめ:最適な場所選びは、成功する店舗作りの第一歩
今回は、店舗開業における場所選びで失敗しないためのポイントを、具体的なステップとプロの視点から解説しました。
家賃の安さといった目先の条件だけでなく、「事業コンセプトとの一致」を軸に、多角的な視点で場所を評価することの重要性をご理解いただけたかと思います。場所選びは、あなたの夢と情熱を注ぎ込む、大切なお店づくりの土台となる工程です。
この記事でご紹介したステップやチェックリストが、あなたの判断の一助となれば幸いです。もし、一人で場所選びを進めることに不安を感じたり、専門家の客観的な意見が聞きたくなったりした際には、どうぞお気軽にご相談ください。
私たちは56年にわたり、数多くの創業者様の店舗づくりに寄り添ってまいりました。その経験とノウハウで、あなたの事業成功に向けた第一歩を、全力でサポートいたします。
最適な場所選びは、成功する店舗作りの、最も重要で輝かしい第一歩です。